真空管のおはなし

 

真空管はどのように利用されているのか。(されていたのか)。

 

真空管は原理的には大きく2種類に分けることが出来ます。

ひとつは2極管で、ふたつめは多極管です。

 

2極管は、いわゆるダイオードと同じ機能を持ちます。

多極管は・・・特に3極管・・・、トランジスタと同じ機能を持ちます。

 

半導体が開発される前は、全ての電子機器は真空管を利用して製造されていました。

(例外として、セレンという半導体金属を利用した、ダイオードはありました。)

 

 

最も初期のコンピュータ(電子計算機)も真空管を利用して製造されていました。

 

実稼動した代表的な機種は次のようなものです。(Wikipediaより部分引用)

ENIAC

ENIAC(エニアック、Electronic Numerical Integrator and Computer)は、アメリカで開発された黎明期の電子計算機(コンピュータ)。完全でデジタル式であり、プログラムを組み換えることで広範囲の計算問題を解くことができた。

ENIAC17,468本の真空管、7,200個のダイオード、1,500個のリレー、70,000個の抵抗器、10,000個のコンデンサ等で構成されていた。人手ではんだ付けされた箇所は約500万に及ぶ。幅30m、高さ2.4m、奥行き0.9m、総重量27トンと大掛かりな装置で、設置には倉庫1個分のスペース(167m2)を要した。消費電力は150kW[12][13]。そのため、ENIACの電源を入れるとフィラデルフィア中の明かりが一瞬暗くなったという噂が生まれた[14]。入出力にはIBMのパンチカード(読み取り装置とパンチ)を使用可能だった。出力されたパンチカードをIBMのタビュレーティングマシン(IBM 405 など)に読み込ませて印字することができる。

ENIACでは当時一般的だった8ピンソケットの真空管を使っている。アキュムレータのフリップフロップには双三極管 6SN7 が使われ、他の論理回路には 6L76SJ76AC7 が使われている。モジュール間を結ぶケーブル上でのパルスを駆動するのに 6L6 6V6 が使われている。

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真空管が並ぶENIACの裏面の一部

 

当初、真空管は毎日数本が壊れ、修理には毎回30分ほどかかった。特殊な高信頼真空管が使えるようになったのは1948年のことである。故障の大部分は電源の投入・切断時に起きていた。これは真空管のヒーターとカソードの加熱と冷却の際にもっともストレスがかかるためである。そこで、真空管のフィラメントを定格の10%未満という低い電圧で動作させ、加熱と冷却でフィラメントが膨張と収縮を繰り返さないよう電源は落とさない等、多くの工夫を行った。それにより真空管の故障率を2日に1本という割合にまで低減させた。真空管の故障はだいたい2日に1本の割合であったが、1954年、116時間(ほぼ5日間)という連続運転記録を達成している。

 

UNIVAC1

UNIVAC Iは、世界初の商用コンピュータ。1950年に完成し、1951年にレミントンランド社(現Unisys)が発売。Universal Automatic Computer(万能自動計算機)の略。初の事務処理用途のコンピュータでもある。

ENIACと比較して真空管の本数は3分の1以下の5200本。メモリには100本の水銀遅延管を使用し、10000本のダイオードを搭載していた。重量7.2トン。入出力装置には、初めて磁気テープが搭載された。プログラム内蔵方式で、1秒間に10万回の加算が可能だった。

 

FUJIC

FUJIC1956年に完成した、日本で最初に稼働した電子式コンピュータである。レンズの設計には複雑な計算が必要であるが、当時の機械式計算機では精度が低く、数十人の社員が数表で計算していた。富士写真フイルムのレンズ設計課でカメラレンズの設計課長を務めていた人物が効率化のためにコンピュータが有効だと考えたが、当時コンピュータは海外の大学ぐらいにしかなかった。そこで彼は自作で真空管を利用した国産コンピュータを作ろうと考えた。

2極管約500本、3極管など約1200本。ENIAC17468本の1割の本数であった。これは当時の真空管が非常にフィラメントが切れやすく、大量に使うほど保守の手間がかかるため極力使用を減らしたものである。それでも毎日2-3本は交換していたという。日本ではその後すぐ国産の素子であるパラメトロンや、トランジスタを使ったコンピュータが登場したため、FUJICは真空管式による数少ない国産コンピュータとなった。FUJIC以外に完成を見た真空管式コンピュータとしては、東京大学と東芝の共同開発で1959年完成したTACしかない。

 

 

真空管を利用して造られていた家電製品の代表的なものは、ラジオとテレビです。

日本では大正15年に始めて放送が始まりましたが、この放送を受信するためのラジオには、その当時から昭和30年代まで真空管が使われていました。

テレビ放送は昭和28年に始まったが、これの受像機・・・テレビ・・にも真空管が使われていました。

その後、半導体技術の発展によりラジオもテレビも、トランジスタ、ICLSI、超LSIを利用するようになり、真空管の役割は終わりました。

しかし、テレビの画像を表示するブラウン管も真空管の一種であり、アナログテレビの時代・・・つい最近・・までこれを利用したテレビが普通でした。

 

 

現在、真空管を最も活用している分野は、オーディオとステージのアンプ類です。

 

何故、オーディオとステージのアンプ類に真空管が利用されるのか?

 

勿論、オーディオとステージのアンプ類も一般的にはLSIを利用した製品が製造、販売されています。

しかし、耳の肥えたひとや、一流のギタリストの中には今でも真空管のアンプ類を好む人がかなり居ます。

これは何故でしょう?

簡単に言うと、真空管のアンプ類の方が音が良いからであると言われています。

LSIは半導体で作られるから、その内部での電子の移動速度は、真空中を飛ぶ真空管内での電子の移動速度より遅くなるのは明らかです。

この速度の差が音質に影響するとの説があります。

聴覚は感性の領域だから、これには何の根拠もないとする先生方もいます。

しかし、感性だからこそ、あるひとが聞いて良い音と感じれば、それが正解だとも言えます。

 

ギタリスト(ロックの分野)の演奏では瞬間的に非常な大音量を出さなければなりません。

真空管は瞬間的な負荷には容易に耐えることが出来ます。

一方半導体で造られたトランジスタ類は瞬間的な大負荷で破損することがあります。

ダイナミックレンジの非常に大きいギター演奏には真空管のギターアンプが現在でも結構使われてます。

 

 

真空管の大きな特長

 

真空管はその名前の通り、電子を操作するための材料・・・電極と言う・・・がガラスで囲まれた真空中に置いてあります。ガラスは非常に安定している物質であるので、その中にある材料も(酸化されることがないので)長期間変化しません。

したがって、真空管は長期に保存してもその性能が変化しません。

そこで、真空管の全盛時代・・・1930年代〜1950年代に製造された品種が今でも珍重されています。市場価格も年毎に高価になる傾向にあります。

骨董品以外の実用品で古いものの方が高価である商品は真空管以外には見たことがありません。

 

そこで、近年・・・と言っても10年以上前から・・・以前の東欧諸国と中国で新たに真空管を製造して販売している。しかし、真空管の全盛時代の技術の伝承がないため品質、性能は昔の製品に劣り市場価格も、1/101/100で流通しています。

 

また、旧ソ連、ロシアでは近年まで軍需用に真空管を製造していました。一説によればミサイルに搭載する電子部品としては放射能に影響されない真空管の信頼性を重視していたと言われています。

ロシア製の真空管は現在も市場に多く流通していまする。

 

 

真空管オーディオアンプ

 

通常市販されているメーカー製の大多数のオーディオアンプは半導体、LSIで構成されていますが、ハイエンドのアンプの中には真空管を使っているものも、国産、海外製品共沢山あります。

また、真空管アンプは製作が半導体に比べて易しいので、オーディオファンには自作しているひとも多く居ます。

真空管アンプの愛好者は真空管全盛時代をリアルタイムで経験したひとが大多数という訳でもなく、最近は若い人もフィードバック理論を駆使して、高級な真空管アンプを製作してひとが大勢います。

伝統的な真空管アンプを製作いていた職人(先生方)には手が出せないレベルまで技術進歩のある分野です。

 

一方、昔の映画館、劇場で使われていた大出力の真空管アンプシステムは今でも数百万円〜数千万円で取り引きされています。特に有名なのは今のATTの子会社であった、Western Electric 社の製品です。

若し、ご実家がその昔映画館であった方が居られましたら、その器材を廃棄されないようお奨めします。

 

真空管の歴史と種類

 

ここでは、真空管アンプやラジオ、テレビ等のコンシュマープロダクツに利用される真空管について説明します。

大型送信管、マグネトロン、クライストンなどの商用機器、軍用機器に主に用いられる品種は除きます。

 

歴史

 

真空管の歴史はエジソンの電球の発明から始まります。

1880年に、彼は電球の中にフィラメントの他にもう1個の電極(Electrode)を入れてみたら、その電極からフィラメントに電流が流れることを発見しました。エジソン効果といいます。

彼はこの原理の特許は取得しましたが、それだけでした。

 

1904年に、イギリスのフレミングが、エジソン効果を応用して2極真空管・・・ダイオード・・・を発明しました。

1907年に、もう1個の電極を追加した3極管・・・トライオード・・・を発明しました。

真空管の活用はこの発明により始まったと言えます。

有線通信(電話)、無線通信共この発明により大きく発展しました。

 

また、公衆放送(Broadcast)、つまりラジオ、テレビも発展して現在に至ります。

映画の無声映画から喋る映画に変わり、レコード盤も出てきました。

これらの実用化、大衆化を可能にしたのも真空管のお蔭です。

 

種類

電極の配置、構造で分類すると:

2極管、3極管、4極管、5極管、そのた多極管に分類出来ます。

形、外形で分類すると:

テニスボール型、ST型、メタル型、GT型、ミニアチュア型、サブミニアチュア型、コンパクトロン、マグノーバル型、その他時代の要求に合わせて多種、多様のものが開発されてきました。

 

 

真空管の選び方

ここでは、家庭用真空管アンプに利用する出力用真空管の選び方について、一般的に言われていることを述べています。

全く異なる見方もありますので、なるべく多くの記事、文献を参照することをお奨めします。Web上にも多くの情報があります。

 

先ず、真空管アンプに必要な出力(何ワットか)を決めなければなりません。

これは大きければ大きいほど良いという訳ではなく、使用するスピーカや部屋の広さ、壁の種類などによって変化します。

一般的に、真空管アンプは半導体アンプに比べてスピーカのインピーダンスによる実効出力の変化が少ないと(スピーカによる影響を受け難い)言われます。

但し、半導体アンプのような数百ワットの真空管アンプは普通は製作出来ません。

そこで、真空管アンプで用いるスピーカはある程度効率の良いものが適します。元来音響装置はエンクロージャの共鳴を利用しているものです。

ピアノ、バイオリン、お琴など皆そうです。パイプオルガンも大聖堂の共鳴により良い音が出ています。

スピーカも音響装置ですから、基本的には大きなものほど音が良く、効率も高いものです。真空管アンプは効率の高いスピーカと組み合わせると、その良い点を発揮出来ます。

しかし、近年の住宅事情とスピーカ技術の発展により、良い音の出る小型低効率のスピーカが普及しています。

このようなスピーカを真空管アンプで駆動すると?

大丈夫です。

半導体アンプの定格出力は、あくまでそのアンプに最適な入力と負荷で使用したときのものですが、真空管アンプの定格出力には余裕があります。

ここでは詳しく述べませんが、半導体アンプにはクリップという現象があり、一定のレベル以上の出力は出すことが出来ません。

一方、真空管アンプには余裕があります。一般的には、20ワットの真空管アンプは100ワットの半導体アンプに匹敵する駆動能力があると評価されています。ギタリストに真空管アンプが珍重される所以も一つはここにあります。

 

真空管アンプの出力が決まったら、いよいよ品種の選択です。

3極管か5極管、ビーム管か?

3極管は基本的にはフレミングが発明したものと同じ構造です。構造が簡単ですので、内部での電子の流れも素直で簡単な構成で良い音の出るアンプが製作できます。

但し、大出力(10W以上)のプレート損失(出力に相当する)をもつ品種は少ない。出力数十ワットのアンプを作るには、送信管などプレート損失の大きな品種を採用しなければなりません。

 

5極管、ビーム管には最初から真空管アンプ用に開発された品種も多くあり、出力数十ワットの真空管アンプに利用できる品種が多くあります。

 

真空管は古いものほど音が良く、品質も信頼性も高い。

これは他の家電、部品を考えると不思議な事実です。

この理由は、はじめに述べたように真空管は劣化しないということと、これの全盛時代には、当時の巨大企業が全勢力を傾けて真空管の製造にあたっていたということです。

また、真空管は電話回線の搬送網の中継器の中で使われていたので、非常に高い信頼性を要求されていました。

そのような理由で、世界最大の電話会社であったATTの工場であった、Western Electric 社がその昔製造した真空管は現在でも高値で取り引きされています。

 

近年・・・ここ十数年・・・は、真空管アンプの見直しにも伴い、旧東欧、中国などで再生産された真空管も流通しています。

この中には薬のGenericに近いもので、昔の真空管メーカのブランドと可能ならば製造装置まで買い取って、出来るだけ昔のものに近い製品と、品種、品名は似ていますが独自に開発製造した製品があります。

いずれにしても、古いオリジナルの製品とは差がありますので、選択の際には注意が必要です。

価格はオリジナルのものの1/101/100で、音質は感性の領域ですので、選択の基準というものはありません。ご自身の判断の問題です。